その嘘に手を伸ばし生きていく(「神様がうそをつく。」感想)
短いながらも深く感じさせる一作「神様がうそをつく。」(尾崎かおり、アフタヌーン2013年5月号から9月号、全1巻)
漂う閉塞感の中での、少年と少女の一夏の物語。
以下、ネタバレ多めなので注意。
- 作者: 尾崎かおり
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/09/20
- メディア: コミック
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母子家庭に住む小学生6年生の夏留(なつる)。サッカー少年であるものの、新しいコーチとそりが合わない。クラスメイトの鈴村理生(りお)は父親がアラスカにカニをとりにいくと出て行ってから、弟と二人で過ごしている。そんな二人がふと近づき、秘密を共有し、そして―。というお話。
なんとなく、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を思い出した。
父が漁に出て行ったまま帰らず、クラスメイトからはラッコの密猟で捕まってると悪口を言われるジョバンニ。鬱屈とした中で唯一の友人のカムパネルラと銀河鉄道に乗り「ほんとうの幸せ」を考える。周りの乗客は途中で降りていくが、ジョバンニの切符は「どこまででも行ける」切符を持っていた。
それに対して、全てから逃げ出したくて、当てもなく電車に乗った夏留と理生は、所詮小学生が行ける程度のとこまでしか行けなくて、どうしようもなくて。
でも、最後は希望も見える。生まれたときに体が小さく「夏まで元気にこの世界に留まるように」という願いの込められた「夏留」と、まさに「生きる理由」という意味の「理生」。二人とも本当は「どこまででも行ける」切符を持っているはずで。
さて、この作品を読んだ人なら、理生の父親について否定的な意見が多いと思う。でも、自分はなんとなくわかる。わかるというか、そういうこともあるだろうなぁという感じ。
自分は結婚もしてないし、子供もいないけど、アラサーにもなると周りでも親になる人がそれなりに出てくる。そういう友達と話すといつも不思議。おいおい、いつの間にお前は父親になったんだよ?って。この前まで一緒にバカなことをしてたのに、何急に親らしいこと言っちゃってんのと。
子供が出来たら誰もが父親、母親にクラスチェンジするものなのだろうか。子供が生まれたら、みんな「おとうさんスイッチ」が入るのだろうか?自分にはわからない。自分にはそれがついてないんじゃないかとよく思う。ま、どうせ縁なさそうだからいいけど。
それで、もしそれがなかったら、理生の父親のようになってしまうのかもしれない。だから別に自分はこの作品を読んでも、そういうこともあるかなと。
短めで、感動的な作品をお探しの方は是非。
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こちらも。
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漫画版ならすぐ読める。
- 作者: 宮沢賢治,バラエティ・アートワークス
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