イワシ式

個人的なマンガの感想を細々と書くブログ

さよーならみなさん(「さよーならみなさん」感想)

初版が少なすぎたのか、発売直後は品切ればかりでAmazonでもすぐに在庫切れになってたマンガ「さよーならみなさん」(西村ツチカ、月刊!スピリッツにて2012年12月号から2013年8月号まで連載、全1巻)今は在庫も復活しているようで。

さよーならみなさん (ビッグコミックス)

さよーならみなさん (ビッグコミックス)



誰にでもやさしい女子高生のみなちゃんに、バイト先のスーパーの店長やら、森で補講をする先生やら、寝ぐせのひどい後輩やら、とにかく様々なタイプの面倒な男達が近づいてくるお話。
今回は記事のタイトルもマンガのタイトルそのまんま。この投げやりな言葉が絶妙。
みなちゃんさよーならであり、面倒なみんなにさよーならでもある。


さて、この「さよーならみなさん」の前に、西村ツチカ氏の短編集として「なかよし団の冒険」(リュウコミックス、2010年12月)と「かわいそうな真弓さん」(リュウコミックス、2011年9月)という2作が出ている。
いずれも、独特な絵柄と表現、ちょっとブラックなオチで印象深かった。


最初は、この人の漫画を読んで「無重力だな」と思った。なんか、奇妙なのだ。人の重さを感じないというか。
あるいは、あるときは遠近法を無視して真っ直ぐテーブルを描き、またあるときは異常に距離を感じさせたりと、「四次元か」とツッコミたくなる。
現実と照らせばメチャクチャだが、何故か非常に奥行きがあって、立体的に見える。大胆な間があることで、音が消える。その中でひとつひとつのセリフが映える。

読んでいて、自分がどこにいるのかわからなくなるような感覚。


それと、この西村ツチカという人はとんでもないサディストなんじゃないかと思った。
かわいい女の子を描いては、ひどい目に遭わせる。男でもそうだが。
せっかくいいキャラクターを描いたのに、なんでこんなことができるんだ!
もうこれは、ブラックな展開で読者を驚かせようというよりも、単に登場人物をいじるのを楽しんでいるんではないかと思う。


絵柄やコマ割り、あらゆる漫画的技法を使って自在に表現する。
空間をねじ曲げるのも、物理法則を無視するのも、女子高生がかわいそうな目に遭うのも、全ては思いのまま。
これぞ、まさにマンガ。


好みは分かれるだろうけど、すごく味がある。多くの人が「画が上手い」と言うのも納得。次回作が楽しみ。




また、この作者は「トキワ荘プロジェクト」というところの出身でもある。漫画家志望者向けに安い家賃でシェアハウスを提供するというプロジェクト。

トキワ荘プロジェクトが出している「漫画家白書」(2011年1月初版発行)という本の中では、以下のようにインタビューに答えている。(当時は「読み切り作家」というポジションだった)

―今後の目標はどのような感じですか?

目標は「マンガの現場に常に一定の影響を与える」の一言につきますね。プラスにもマイナスにもならないような漫画家なら省略すればいいじゃん、って話になってしまうので。ジャンルで言えば「ヴィレッジ・バンガード系」。ジャンプのような本流は行かない感じですかね。
(「漫画家白書」p.49)

ひと味変わった漫画を求める人は是非。

さよーならみなさん (ビッグコミックス)

さよーならみなさん (ビッグコミックス)

西村ツチカ作品集なかよし団の冒険 (リュウコミックス)

西村ツチカ作品集なかよし団の冒険 (リュウコミックス)

かわいそうな真弓さん(リュウコミックス)

かわいそうな真弓さん(リュウコミックス)

トキワ荘プロジェクトについてはこれからも注目したい。

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