人の心の奥にある禁忌(「バベルの図書館」感想)
年末の連投。感想書いてなかったけど、今年一番印象に残った作品。「バベルの図書館」(つばな、マンガ・エロティクス・エフvol74からvol83(2012年3月から2013年9月)まで連載。全1巻。)
連載追ってるときは隔月ということもあってよくわからなかったが、通しで読むとグッと引き込まれる。
- 作者: つばな
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2014/01/22
- メディア: コミック
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現在、連載している作家さんの中で、つばな氏は一番気になってる。
「第七女子会彷徨」もめちゃくちゃ好きで、夏ぐらいに感想書きたいなーと思ってたら結局まとめられずに年末になってしまった。
この人、凄い。
今年も面白い漫画はいくつもあった。
でも、この人の作品は読んで、もちろん面白いんだけど、それだけでなく悔しい。
別に自分はマンガ家でも何でもないので悔しがる必要は全然ないけど、それでも、世界をこういう風にとらえて、表現できる人がいるというのが何となく悔しいというか。
あー、なんで自分はつまらん発想しかできないんだろうなー、と。
客観的に面白い作品、多くの人が手に取る作品はあるけど、主観的に自分のストライクゾーンにバシッてくる作品は一人一人違うだろう。
それが、自分にとってはこの人の作品なんだと思う。
さて、この「バベルの図書館」だが、タイトルはボルヘスという人の短編小説からそのままとられている。
- 作者: J.L.ボルヘス,鼓直
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1993/11/16
- メディア: 文庫
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タイトルは聞いたことがあったが、中身を読んだことはなかったので読んでみた。
うん、短いけど難しい。。
この小説に出てくるバベルの図書館には、あらゆる文字の組み合わせによる、あらゆる本が納められている。
大抵は意味のない文となるが、一方であらゆる文字の組み合わせが存在するならば、意味をもつ文ができることもあるし、一冊丸々が意味のある本になるかもしれない。
100冊、1000冊という話ではなく、無限の組み合わせが存在するならば、過去も未来も含めて、文字で表されるものはこの図書館の中のどれかの蔵書と一致する。
そんな感じの話。
さて、マンガの方に話を戻すと、話は男子高校生の渡瀬と同級生で女子の相馬(あいば)の二人だけでほとんど進んでいく。
渡瀬の方は「紙の上にあることなら何でもわかる」という超能力のようなものがある。
「文字は記号の組み合わせでしかない」まさにバベルの図書館だ。
一方の相馬は、昔から本当の世界へと続く「天使の抜け道」をさがしていた。この現実は、嘘の世界だと。
あるとき、渡瀬が相馬と一言一句全く同じ作文を書いたことで、相馬は偶然を超えて、ついに天使からのメッセージを受け取ったと思いこむ。
それから、相馬は渡瀬と手紙のやりとりをし、天使へメッセージを伝えようと試みる。屋上から紙ふぶきをまいたり、何も書いてない手紙をポストに投函したり。そんな意味のないこと、「人間のルールの中では到底理解できない行動」をメッセージとして繰り返した。
ただ、渡瀬はもちろん作文を一致させたのは自分の超能力によるもので、天使のメッセージなんてないことをわかっている。
そして、最後は―。
というお話。
この「バベルの図書館」がエロエフで始まった時、特集として「石黒正数×ツナミノユウ×つばなスペシャル座談会」、「つばなさんに99の質問」という記事が組まれている。(この座談会はめちゃくちゃ面白い!)
後者の99の質問にて、「好きな小説は?」との問いに「花村萬月さんの『二進法の犬』。」と答えている。
- 作者: 花村萬月
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2002/02
- メディア: 文庫
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これも読んでみた。
家庭教師とヤクザの組長の娘の話。博打と抗争と性愛。千ページを超える長編だが、非常に鮮明、刺激的な描写で読むのを止められない。まさに名作。
「バベルの図書館」はこの「二進法の犬」がちょっと頭にあるように思う。
このマンガの最後には二つの結末が示される。
解釈は色々あるだろうが、どちらが「真の結末」か。
「第七女子会彷徨」でもそうだが、この作者は「本物」をどこかで求めている。
「本当の世界」、「本当の人生」、「本当の気持ち」…。
不思議なアイテムや超能力は、それ自体がメインではなく、この世界の「本物」と「嘘」を浮かび上がらせる小道具だ。
リアルに描くことは決して「本物」に近いわけではない。角度を変えて見るからこそ、揺るがない「本物」を見分けられる。
無限の文字の組み合わせでも、それが文字で表されたものである以上、限界がある。
可能性の内側にいる閉塞感。
そして無限の先にある「本当の世界」。
幸せだからいいというような話ではない。
もしかしたら堕ちていった先に本当の人生があるのかもしれない。
自分もふとそんなことを考えることがある。
子供っぽい妄想だが、何か今の生活、人生に感じる違和感。
だからこそ、ここまでそれを表現できる人を見ると、悔しく思うのだろう。
話のテーマとしても、表現技法としても、非常に意欲的な一作。
好みは分かれるだろうが、未読の方は是非。
- 作者: つばな
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2014/07/04
- メディア: Kindle版
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ちなみに、「このマンガがすごい!2015」の「各界のマンガ好きが選ぶこのマンガがすごい!」のコーナーにて、一人だけこの作品を挙げている人がいた。
他のも自分と近くてちょっとうれしい感じ。
- 作者: 『このマンガがすごい!』編集部
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2014/12/10
- メディア: 単行本
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