イワシ式

個人的なマンガの感想を細々と書くブログ

精一杯生きてる人間てのはすばらしい(「アドルフに告ぐ」感想)

今年の4月ごろに手塚治虫の作品がいくつか電子書籍化されている。しかも今なら100~300円程度。時代が違うのでリアルタイムで読んでいたわけではないが、子どもの頃にいくつか文庫版で読んだことがある。その中で一番好きなのは「アドルフに告ぐ」(週刊文春にて1983年1月6日号から1985年5月30日号まで連載。全5巻(文庫本版))

(以下、ネタバレがいくつかあるので注意)



『これは アドルフと呼ばれた 三人の男たちの物語である』

この一節から始まるお話。

アドルフ・ヒトラーユダヤ人であったという設定から、ドイツと日本の2つの国を舞台に、3人のアドルフ、そして語り部である峠という日本人を中心に話が展開されていく。
ヒトラーユダヤ人の血が流れているという説は一時期流行ったようだが、今ではほぼ否定されている。ただ、出生ではっきりしない部分はある)

ヒトラー出生の秘密を記した文書を巡るミステリー、サスペンスに始まり、歴史を語り、戦争を描き、人間のドラマを見せる。
ストーリーは本当に綿密に練られていて、グイグイと引き込まれ、最後のコマに辿り着いたときはまさに感無量。

単に戦争の悲惨さを語るとか、体制批判とかそういうものではない。
一人一人のキャラクターたちが魅力的で、1コマ1コマの絵やセリフで優しさや強さや、目いっぱいの喜怒哀楽が表現される。


(第一巻)

純粋にマンガとして上手い、面白い。
だからこそ、このマンガを通して、人間の美しさや愚かさ、命の尊さといったメッセージが伝わってくる。


戦争を描いたマンガとして「はだしのゲン」も同じく電子版で買って読み直してみたが、イマイチ共感できなかった。メッセージ性うんぬんではなく、マンガとして今の人にはあまり受け入れられないのではないかと思う。
自分が図書室におくんならゲンよりアドルフだなと。



リアルタイムで触れてたわけではないし、時代もだいぶ違うので、手塚治虫がどれぐらい凄いかなんて自分には理解できないだろう。
ただWikipedia見てると、もう頭おかしいとしか。

手塚治虫
手塚治虫の作品一覧


マンガでは全604作とか意味わからん。読んだことあるのなんて、せいぜい10タイトルぐらいか。


この「アドルフに告ぐ」は文藝春秋に掲載されていたということで、鉄腕アトムのような少年漫画の描写ではなく劇画調のタッチで描かれている。その中で漫画的な表現も盛り込んで、極めるとはこういうことかと。

例えばヒトラーの演説も、動画のようなリアルさ、クラシック音楽で徐々に盛り上がっていくような迫力。コマ割りもどことなくハーケンクロイツを思わせる。

(第1巻)

ここからさらに盛り上がって、ヒトラーの人間離れした感じや狂気のようなものが現れる。

レイプシーンにしてもこの表現。



(第5巻)

あんまりネタバレするのもアレなのでこのぐらいにするが、他にも印象的なページがたくさん。
マンガとしてあらゆる要素を盛り込んだ最高傑作のひとつだと思う。



手塚作品は、今、他の人が同じように描いてたら非難されるようなものばかりかもしれない。
人種差別につながる表現があるというので手塚作品の単行本には巻末に断り文が書かれているし、電子版でも同様。

前回のエロエフの記事を書いてる時も世知辛いと思ったが、読み手がきちんと自分の頭で判断できれば、別におかしなことにはならないはず。
小城先生の言う通り、『差別や弾圧から立ち上がって戦わなきゃ…』ということなのだろう。

大袈裟かもしれないが、こうして面白いものが減っていくのかと思う。
ただ、面白いものは必ず再評価されるはずだし、こうして電子書籍化して誰でもアクセスできるようにしてほしいと思う。

アドルフに告ぐ 1アドルフに告ぐ 2アドルフに告ぐ 3アドルフに告ぐ 4アドルフに告ぐ 5


「わが闘争」の中身というよりは、ヒトラー自身に関する記述が中心だが、参考として。

わが闘争 -まんがで読破-

わが闘争 -まんがで読破-


作品を理解する上では教養も大事だよなと最近よく思う。学生の頃は共産主義とかそこらの対立とかもよくわかってなかったし。もっと真面目に勉強しときゃよかったなと。

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