ぞくり… (「僕だけがいない街」感想)
2013年もそろそろ終わりということで、個人的に今年一番面白かった作品を。「僕だけがいない街」(三部けい、ヤングエース2012年7月号から連載、既刊3巻)。
「このマンガがすごい!2014」でもオトコ編15位にランクイン。
- 作者: 三部けい
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2013/05/18
- メディア: Kindle版
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2006年5月―。
主人公の藤沼悟はマンガ家を目指している。ただ、28歳になるが連載はなく、アルバイトで生計を立てている。
そんな彼には、「再上映」(リバイバル)と呼ぶ不思議な現象がたまに起こる。それは、何か「悪いこと」が起こる直前に、すこしだけ時間が巻きもどる現象。何度も同じシーンが繰り返される中、「原因」を見つけ、トラブルを回避する。
ただ、このリバイバルも「マイナス」が「プラマイ0」になる程度で、場合によっては他人を救うために、自分にとって「プラマイ0」が「マイナス」になることもある。
そんなある日、悟に会いに北海道から上京していた母親が事件に遭う。
犯人を追う悟だが、見失い、逆に自分が窮地に追い込まれる。
そこで、今までにないぐらい大きなリバイバルが起きる。
…
気がついたとき、そこは1988年、昭和63年2月の北海道。
事件の「原点」である18年前の小学校の前にいた。
悟は、18年前に起きた連続児童誘拐殺人事件の真実に立ち向かうことになる―。
こんな感じの話。
いわゆるループものである。手法としてはありきたりとも言える。
ただ、この「僕だけがいない街」では、そのループが非常に丁寧に描かれる。
上に書いた18年前に戻るところが1巻の最後。
そして、2巻ではずっと18年前が舞台となる。
最新の3巻ではまた現在に戻ってくる。
ループものというのは、「失う」話だ。
失う。失敗する。だから、戻ってやり直す。
失った後悔と、「やり直せる」という希望。
その変化によるインパクトの大きさは、失った物がどれだけかけがえのないものだったかで決まるだろう。
ループ前の状況が丁寧に描かれることで、18年前に戻ったときに、絶望からバッと光が差し込んでくる。一気に物語にひきこまれる。
もうひとつ、丁寧さが際立つのが「不気味さ」だ。
作品全体を通じて、「違和感」や「気持ち悪さ」が漂っている。
読み手としては、ループものとして「失ったものを取り戻す」というハッピーエンドを期待する。
ただ、作品を覆うその不気味さから、「本当に取り戻せるのか…?」という不安を抱かせる。ぬぐい去ろうとしても、何かが背後に迫ってくる。
劇的に不気味な描写が入るわけではない。
むしろ、話は極めて淡々と描かれる。
悟のモノローグが多いが、冒頭にて「作者の顔が見えて来ない」と編集者から指摘されているように、どこか自分を演じている。客観的に見ている。
マンガの構成としても、単純なコマ割りが多く、単純に上から4分割するようなページもいくつか出てくる。
1コマずつ、コツ、コツ、コツ、コツ、と。
着実に犯人に、核心に迫っているのか。
それとも、逆に追い詰められているのか。
いずれにしろ、淡々と描かれることで、「失う」のか「取り戻せる」のか、その時が確実に訪れるだろうということが予見される。
読み手も覚悟を持たなければならない。
そう、このマンガがすごく印象に残ったのは、ページを読み進める際に手が震えるような、鼓動が早くなるような、そんな切な緊張感を感じられたから。
そしてなんといっても、最新3巻のラストもちょうどいいところで終わっているが、「早く続きを読みたい!!」と今年読んだ中で一番強く思った。
あとどれぐらい続くのかはわからないが、来年もまだまだ楽しめそうではある。
++++2014.2.1 あとがき追記++++
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