今日を生きる(「まじめな時間」感想)
前回の「黄昏乙女×アムネジア」に引き続き、幽霊の話。「まじめな時間」(清家雪子、月刊アフタヌーンにて2012年2月号から10月号まで連載、全2巻)。
死んだ人は幽霊になる。
そして何年かすると現世への執着が薄れ、やがて消える。
そんな死後の時間に何を思うのか。
- 作者: 清家雪子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/12/07
- メディア: Kindle版
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「キミ、死んじゃったんだよ」
女子高生の植村一沙(うえむらかずさ)は突然、交通事故で死んでしまう。気づくと幽霊になっていて、自分の死体が横たわっている。
奇妙な思いで自分の葬式を、友人を、家族を眺める。
まだ高校生。当然、心残りはいっぱいある。
仲良しグループの中に、好きな男子がいた。
二人っきりで買い物にも行くし、お互い告白はしなかったけど、周囲からも公認の仲。
と、思ってた。
ところが、その男、光晴(みはる)には他に好きな子がいた。
それどころか、鈍感の光晴は、一沙は他の男子のことが好きなんだと思っていた。
「バカっ!」「つーか聞けよ!!」
叫んでも、幽霊の声は聞こえない。
どんなにイライラしても現世の人には伝わらない。
ムカついてしょうがいないのをどこにもっていいのかわからない。
だが、その光晴が好きな蘭子(らんこ)は霊感が強く、言葉は聞こえないながらも、なんとなく一沙がいることに気づく。
彼女を恨み、嫌がらせをしようとする一沙。
そんな中、一沙の死を受け止めきれない母親が心労で倒れる。
自分が死んでお母さんがこんなに悲しむなんて。
「お母さんがあんなに私を好きってことも、お父さんがあんなに優しいってことも、死んでからわかったってどうにもなんないじゃんね」
日に日に病んでいく母親を心配し、唯一接点をもてる蘭子を使い、一沙はなんとかして母親に自分の気持ちを伝えようとする。
そんなお話。
2巻の後半は作者の過去作品のため、実質的には1巻半といったところ。最初に読んだときは、まだまだ残りページ的に続きあると思ってたら、急に「おわり」となって、「あれ!?」って思った。要注意。
決して暗い話というわけではなく、なんとなく過ごしていた生きている時よりも、むしろ感情は大きく揺れ、躍動感がある。
で、コミカルな描写で油断させておいて、シリアスなシーンでおとす。
短い話である分、セリフのひとつひとつのメッセージが強く、強烈に心に響く。
改めて読み返すと、いいセリフばっかりで涙が出そうになるとともに、考えさせられる。
自分が突然死んだとして、後悔することはないか。
死んだ方は「なんで生きてるうちにやらなかったのか」と悔やむ。
残された方も「なんで生きてるうちに伝えられなかったのか」と悔やむ。
生きている間は「そのうちなんとかなる」と思ってどこか真剣になれない。
死んでから、取り返しがつかなくなってから、
お互い気づき、考え、変わっていく。
そのための「まじめな時間」。
感動できる短編をお探しの方にオススメ。
- 作者: 清家雪子
- 出版社/メーカー: 講談社
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